「誕生日おめでとう」 「遅いよ。私の誕生日は昨日だよ」 「もちろん知ってるさ。昨日は色んな人に祝ってもらっただろう」 「うん」 「だから僕は今日祝おうと思ってさ。クリスマスもお正月もたくさん祝うのに誕生日だけ一日で済ますなんて勿体無いじゃない」 「でもそれならクリスマスイブとか大晦日みたいに前の日が良かったな。誰よりも早く祝って欲しかった」 「それじゃあまだ君は歳を取っていないだろう。その歳のお祝いは去年やったさ」 「まあいいわ。あなたが私の誕生日を覚えてくれたのなら。ありがとう」 「当たり前さ。君が生まれた喜ばしき記念日を僕が忘れるはずないだろう」 「嬉しい。それで何かプレゼントはあるの?」 「何か他に欲しい物があるのかい?」 「いいえ特に…えっ?今『他に』って言ったの?私まだ何も貰ってないけど」 「何を言ってるんだい。最初にあげたじゃないか。お祝いの言葉とその気持ちを。伝わらなかったかい?君は『ありがとう』と言ったし『嬉しい』とも言ったよね」 「確かに言ったし伝わった。だけど何か物にして贈るのが普通じゃないかな?」 「慣習的な事をして欲しいのかい?物に託すのは気持ちを伝えるのが下手な人間がやる事だと思うけど」 「そうかもしれない。でも私はその方が嬉しいし安心するの。それに物があれば祝いの気持ちが継続するじゃない」 「それは錯覚だ」 「錯覚でも私がそう思ってればそれは有効なの」 「だったら僕はいつでも君の望むときに傍に居て祝ってあげるよ」 「それは鬱陶しいわ」 「どうして?」 「物は喋らないもの」 「だったら僕も喋らなければ良い」 「そういう問題じゃないわ」 「どういう問題?」 「もういいわ。あなたがプレゼントをくれる気がない事は理解しました」 「それは誤解だし心外だ。僕は言葉と気持ちを送ったさ。それが結果的に君の望む物ではなかったかもしれないけれど」 「だったら私がやっぱり物が欲しいと言ったら買ってくれる?」 「予算の範囲内なら」 「幾ら?」 「君の歳に『千』を加えたくらいまでなら出そう」 「『万』は?」 「冗談は止しなさい」 「それじゃあ素敵なレストランのディナーに招待してもらおうかな」 「それだと物として残らないじゃないか」 「でも想い出としてちゃんと残るわ。それにほら。私の細胞の一部として吸収されるじゃない」 「僕の言葉と気持ちも君の脳内に留まっているはずなんだけどね」 「私、物覚えが悪いの」 「やれやれ」
「誕生日おめでとう」 「えっ?でももう私は…」 「何?」 「ううん。なんでもない」 「君が生まれた記念日には違いないだろ」 「そうだね」 「この世に存在して生きている時間なんて相対的に見れば短いもんだよ」 「いつまでこうして祝ってくれる?」 「忘れるまで」 「いつ忘れる?」 「意識が無くなるまで」 「そのうち私が居ない時間の方が長くなる」 「関係ないさ。生まれてからずっと一緒に居た訳じゃない。出会った時には既にそうだった。時間は問題じゃない」 「でも」 「過ぎ去る時よりも生きている時間の方が長い人間なんていないさ。それよりもその時間が少しでも重なった奇跡を喜ばないと」 「そうだね」 「で、そっちはどうだい?」 「どうだろうね」 「まあそのうち行くよ」 「いいよ来なくて」
「泣いているの?」 「泣いてなんかいないさ」
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